さなえの計算用紙

日常風景やゲームの感想など書いていきます。ご自由にコメントをお願いいたします。

「音楽業界4団体による今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持表明への抗議」に対する素朴な疑問

2022年7月10日に参議院選挙の投票日を控えている。この中で、SaveOurSpaceが以下の抗議文を公開した。

 

twitter.com

save-our-space.org

 

この抗議文に対する素朴な疑問を書いてみる。細かな吟味は行わないが、気が向いたら追記することはありうる。

 

音楽業界4団体による
今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持表明への抗議

 日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会の4団体が、参議院議員選挙自由民主党候補の今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持を公式に表明したことに対して、音楽文化に携わる者として強く抗議します。

 音楽業界内には様々な政治的信条を持つ人間がおり、個人のレベルで支持する政党を表明することはもちろん自由です。しかし、音楽業界内において大きな影響力を有する4団体が連携して特定の候補者の支持を公に表明するという事態は極めて異例であり、音楽業界全体が当該候補者を支持するというメッセージとして社会に受け取られかねません。

 また、これらの業界団体は、様々な政治的信条を持つ会員が会費を払って運営されています。したがって本来は自由投票とすべきであり、そうでないとするならば、合議の上での意見統一のプロセスを経るべきだとわれわれは考えます。今回の支持表明は、そのような透明なプロセスを経た上で行われたのでしょうか。そうでなければ中長期的には異なる考えを持つ会員の政治的信条の自由を脅かすものであり、到底許されることではありません。日本の音楽業界に多大な影響力を持ち、多くの会員・会員社を抱える団体として、これらの候補を支援する明確な理由および支援するに至った経緯を公に説明する義務があると考えます。

 音楽文化には、多様性や少数者を包摂する営みの中で育まれてきた歴史的経緯があります。少数者、すなわちマイノリティには、LGBTQ+の人々や女性も含まれますが、生稲氏については「同性婚の法制化」について明確に反対をしており、両氏を擁立している自民党は「同性婚の法制化」に加え、性的指向性自認に関する差別禁止を明記した「LGBT平等法」に反対する唯一の主要政党でもあります。議会におけるクオータ制や、選択的夫婦別姓の導入等、ジェンダー平等に関する施策についても消極的な姿勢をみせています。

 さらに、自民党が推進するインボイス制度の導入により、音楽に関わる仕事で生計をたて、音楽文化の発展に寄与してきた多数のフリーランスや小規模事業者が大きな経済的ダメージを受けることが予想されています。

 一個人としてではなく、団体として両氏を支持を表明することは、このような人たちの生活を脅かし多様な音楽文化を破壊することにつながると考えます。

 今回の音楽業界4団体による該当候補への支持表明は、コロナ禍で大きなダメージを受けた音楽業界が政権与党である自民党との関係性を深めることにより、少しでも経済的な利益に預かろうとしたものであることは推察できます。しかし、業界に対して経済的な利益があるからといって、明確な理由や十分な説明もなく、少数者の保護に対して消極的で多様性を尊重しているとは言い難い政党とその候補者への支援を公に表明しても良いのでしょうか。あるいは、業界団体には所属していないフリーランスや小規模事業者を追い込む制度を進めようとしている政党への支持を業界の総意であるかのように公に表明しても良いのでしょうか。

 われわれは到底賛同することはできません。

 

浅沼優子(音楽ライター)
加藤梅造(ライブハウス経営)
後藤正文(ミュージシャン)
五野井郁夫政治学者)
篠田ミル(ミュージシャン)
スガナミユウ(ライブハウス店主/  音楽家
高木完(音楽家
Nozomi Nobody(シンガーソングライター)
東森努 (フリーランス)
Mars89 (DJ/ ミュージシャン)
Lark Chillout (DJ/ レコードバイヤー)

 

上記4団体の声明文を見つけることはできなかったが、比較的しっかりとした記事を参照しながら考える。

encount.press

 

1. 4団体の声明は個人の投票を制限するものか?

4団体の声明が本当に投票先を今井・生稲に限定したいのであれば関係各所にそのような通達を出すと思われるが、それがないなら表面的には「制限」されてるとはいいがたいという立場が考えられる。もちろん、業界団体の声明が個人にまったく影響を及ぼさないとは思わない。

 

2. 一般に、業界団体が特定の政治家を応援することは糾弾されるようなことか?

族議員が特定の業界に有利な国会活動を行うことは広く知られていると考える。これにならえば、音楽業界として族議員を当選させようとすることは自然な発想と思える。コロナ禍において芸術分野への支援が不足していたことはアートに生きる個人みなが感じていたと思うが、その改善のために業界団体が動いていると解釈することはできないのだろうか。個人の反体制のイデオロギーが前に出ることが結局業界や自分自身が公的に不利になることは許容するのだろうか。

他に業界や個人にとってよい候補がいるのであれば、その候補を業界としてバックアップするという方法も考えられる。そうではなく、いかなる候補もバックアップするべきでないという姿勢であるならば、自らが政治的に切り捨てられる覚悟をもつべきである。

また、今井・生稲が自民党(≒政権与党)でなかったらこのような抗議文が出ていたのかは興味がある点である。野党候補を業界団体がバックアップしていると、抗議材料としての「性的マイノリティが~」などのマイノリティという属性が使いにくくなるような気がしている。

最終段落で政党の支持と候補者の支持がいっしょくたにされている部分が見受けられるが、ここは分けて考えるべきだろう。通常は業界団体が求めるのは自分の業界への利益が優先であり、候補者を支持するからといって政党が推し進めようとする他の部分についても賛同するものと理解するのは飛躍を含んでいる。

 

3. 音楽の業界団体は音楽や芸術以外をどこまで考えるべきか?

インボイスはまだしも、性的マイノリティが唐突に抗議文に出てくることの違和感がぬぐえない。文化というものが多くのものを包摂することは事実だが、業界団体が自分の業界の足元の不安を解消しようとするなら、性的マイノリティの問題が劣後することは避けられないように思う。これは自身の業界への視点に欠ける個人の政治思想を開陳するだけの抗議文だろう。

 

4. 「公に表明してよいか」という立論

抗議文なのだから、業界団体の行為が誤りであるという論証は必要と考える。だが、最終段落で「公に表明してよいか」という道徳的な指摘に逃げていることでこの抗議文の価値が減弱されたと感じている(表明しなければかまわないという解釈になるか?)。「支持を表明したこと」について論じられているが、「支持すること」そのものへの論証はまったくない。また、分野を問わず業界団体が何か活動をする際に、毎回所属団体や個人に確認をとることはプロセスとして考えにくい。

 

5. 「抗議文への抗議文」への期待

業界関係者全員が同じ意見をもつとは思わないから、この抗議文に反対する者(業界の行動に賛同する者)もいると考える。もしこの抗議文への抗議文を見つけたら拝読させていただく。